技能実習制度を利用している事業者が賃上げ要件のある補助金制度を利用する場合の注意点
- 市岡 直司
- 6月21日
- 読了時間: 3分
本年は経済産業省関連予算において、設備や建物、新規事業等の投資の一部経費に利用できる補助金制度が充実しています。代表的なものとしては、「ものづくり補助金」「省力化投資補助金一般型」「新事業進出促進補助金」が挙げられます。これらの補助金は要件として、賃金の増加、最低賃金水準のアップ(最低賃金+30円以上)を行う必要があり、事後的な審査により未達の場合は補助金の一部返還が必要となります。
技能実習制度を利用している事業者もこれら補助金(ものづくり補助金、省力化投資補助金一般型、新事業進出促進補助金)を活用することで経営資源の拡大や新市場参入のきっかけになり得ます。しかし、特にこの賃上げ要件を満たすために、外国人技能実習生の給与・待遇(給与体系)を見直すことは、一見すれば補助金取得に有利な施策のように見えますが、経営上・制度上のリスクを伴いますので注意が必要です。ここでは考えられる2つのリスクについて解説します。
1)人件費の恒常的上昇リスク
技能実習生の給与を引き上げると、同一業務に従事する日本人従業員とのバランスも考慮せざるを得ません。賃金格差を理由にした職場内の不公平感や士気の低下を避けるため、職場全体のベースアップが必要になる可能性があり、固定費増加という構造的リスクを抱えることになります。特に補助金対象期間が終了した後も、賃上げを維持する義務(3~5年)があるため、一過性の補助金効果に対して長期の財務負担を背負う形となる点に注意が必要です。また近年の最低賃金の上昇傾向も無視できません。仮に当初は最低賃金+30円で給与を設定したとしても、将来的に最低賃金がさらに引き上げられれば、相対的な人件費はますます上昇することになります。これらの補助金制度の利用を検討する場合は、補助金による一時的な支援だけでなく、賃上げ後の持続的な人件費負担に耐えうる収益構造が確保できるかを慎重に見極める必要があります。
2)労務管理の複雑化と法令遵守リスク
技能実習制度では職種ごとに細かい給与・手当のルールや最低賃金の適用条件があります。これを超える水準への引き上げは可能ですが、その場合には賃金台帳・雇用契約書・実習計画などの再整備が必要となり、法的な整合性を欠くと制度違反と見なされる恐れがあります。たとえば、実習内容と無関係の高額な手当や成果給導入が、制度の建付け上「実習」として不適切とされるリスクもあります。
<まとめ>
外国人技能実習生の給与・待遇を補助金の賃上げ要件に合わせて見直す場合には、制度の趣旨を十分に理解し、技能実習制度の運用ルールと矛盾がないかを慎重に精査する必要があります。給与体系の変更は、組織全体の人件費構造や法的責任、職場内の公平性に波及するため、短期的な補助金取得メリットのみに着目せず、中長期的な経営・制度運用との整合性を重視した判断が重要です。

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